歯ぎしりと食いしばりの違い
歯ぎしりとは上下の歯を側方にすり合わせることによってギリギリと音がでるもので、「グライディング」といいます。一方、食いしばりとは、上下の歯を強く噛み締めるのみで音がしないもので、「クレンチング」といいます。両方が混在するタイプの方もいらっしゃいます。
歯ぎしり・食いしばりの機序は?
歯ぎしりや食いしばりは日中と夜間で性質が変わってきます。日中に起こるのはクセによるものが大きいです(覚醒時ブラキシズム)。したがってその習癖に気づき、意識して改善しようと試みることが可能です。しかしながら夜間に起こるものは意識のコントロールで止めることは困難です(睡眠時ブラキシズム)。
通常、歯の組織(歯根膜)には咬合力を感知するセンサー(圧受容器)が存在し、強い力が加わると反射的に口が開く開口反射が備わっています。しかし、睡眠中はこの反射機構が抑制されてしまいます。そのため、日中の咬合力はご自身の体重程度と言われていますが、夜間の食いしばり時にはその2~5倍(体重60kgの方であればその5倍ですとなんと300kg…! )になると言われています。
歯ぎしり・食いしばりの原因は?
明確な原因ははっきりとしていません。精神的ストレス、歯並び、噛みしめぐせ、飲酒、喫煙、遺伝などによるのではないかと考えられています。夜間の歯ぎしり・食いしばりは眠りが浅くなっているときに起こることが明らかになっています。
歯ぎしり・食いしばりのセルフチェック項目
歯ぎしり・食いしばりをされている方の多くは無自覚です。歯科にかかった際に歯ぎしりを指摘されて、初めて自覚したという方も多いと思います。歯科医院ではいくつかの所見から歯ぎしり・食いしばりを推測しています。ご自身でもチェック可能な項目もありますのでぜひ一度お口の中を覗いてみましょう。
歯のすり減り・破折線
歯の先が平らになって形が変わっていませんか。これは「咬耗」と呼ばれ、噛み合わせが強いことで歯の表面のエナメル質が摩耗することによって起こります。エナメル質は全身の中でもっとも硬い組織です。そのエナメル質がすり減るというのは相当な力が加わっていると考えられます。また強い咬合力によって歯に亀裂(透明な縦線)が入ってしまうこともあります。
骨の隆起
お口の内側にボコボコとしたコブのような固い膨らみはありませんか。これは骨隆起です。上顎にあれば口蓋隆起、下顎にあれば下顎隆起と呼ばれます。強い咬合力が加わることによって骨が過剰に発達してしまいます。
歯の根元の欠けや歯肉退縮による知覚過敏
歯の根元が欠けていませんか。くさび状欠損と呼ばれます。歯に強い力が加わり、根元に負荷がかかりエナメル質がバリバリと欠けてしまうことによって起こります。また強い力が加わることで歯肉が下がってしまいます。これらによって知覚過敏の症状が出ることがあります。
歯の浮遊感・動揺
歯を支える組織には歯根膜や歯槽骨があります。歯根膜は歯と歯槽骨をつなぐ組織で圧力を感知する役割があります。歯ぎしりや食いしばりによって歯根膜が炎症を起こす(歯根膜炎)と歯が浮いたような違和感を感じときに痛みを伴います。また歯槽骨にも慢性的に強い力が加わり続けると骨が痩せてしまい、歯がぐらついてきます(咬合性外傷)。
起床時の顎の違和感・慢性的な肩こり・頭痛
朝起きたとき顎の関節や筋肉、こめかみに違和感があることはありませんか。夜間に強い力で噛み締めることによって顎関節や咬筋、側頭筋という閉口筋に負担がかかります。筋肉への負荷は肩こりや頭痛の原因にもなります。また顎関節症を併発する場合があります。
頬粘膜に咬んだ痕がある
起床時に頬の内側の粘膜を咬んでしまっている、あるいは白っぽい咬んだ痕はありませんか。この頬粘膜の圧痕も歯ぎしりをしている方特有の所見となります。
歯ぎしり・食いしばりの治療とは?
歯ぎしり・食いしばりの原因は上記で述べたようにいくつか考えられていますが不明のままです。したがって治療は対症療法が一般的です。症状がこれ以上進行しないようにすることが目的です。
(1)スプリント療法
寝ている間にナイトガードと呼ばれるマウスピースを上顎に装着します。当院ではゴム製で柔らかいもの(ソフト)とプラスチック製で固いもの(ハード)の二種類をご用意しております。どちらも厚みは薄いものを採用しております。ナイトガードを緩衝材にすることによって、騒音や歯の擦り減りを防ぎます。
(2)エラボトックス注射療法(保険適応外)
ボトックス注射とはA型ボツリヌス毒素(天然タンパク質)による筋弛緩作用を利用して、発達した筋肉を緩める治療です。肥大化した咬筋(エラ)にボトックス注射をすることで慢性的な歯ぎしり・食いしばりを改善することがきます。
エラボトックス注射後はおよそ2週間で効果がピークになります。効果の持続期間は3~6ヶ月程度です。